Dubin-Johnson症候群(DJS)
Dubin-Johonson syndrome
Dubin-Johnson syndrome(DJS)は常染色体劣性遺伝疾患で、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を呈します。
多くは思春期から成人期に発症しますが、まれに新生児期から乳児期に発症することがあります。DJSのほとんどは無症状で、高ビリルビン血症をたまたま発見されることをきっかけに診断されます。
DJSは良性疾患であるため、線維症や肝硬変への進行はなく、特別な治療も必要ありません。
疫学
DJSは常染色体劣性遺伝疾患で、発生率は1/1,000,000人と言われていましたが、最新の知見では日本人では1/20,000人程度と報告されています。発症頻度に性差はありませんが、男性ではより早く発症します。通常は思春期から成人期に発症するものの、まれに新生児期から乳児期に発症することがあります。DJSは全ての人種に見られますが、セリティック(スペイン、ポルトガル、北アフリカ系)ユダヤ人に多く見られます。
原因
DJSの原因遺伝子は、MRP2蛋白に対応するABCC2遺伝子です。MRP2は、肝細胞から毛細胆管への直接ビリルビン輸送を担います。DJSでは、ABCC2遺伝子変異によって、MRP2が機能異常を起こし、直接ビリルビンが毛細胆管へ輸送されず、肝細胞に蓄積し、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症をきたします。
症状
DJSのほとんどの患者は無症状で、高ビリルビン血症をたまたま発見されることをきっかけに診断されます。DJSでは、軽度の黄疸(皮膚が黄色くなる)を呈することはありますが、脱力感、上腹部の痛みなどはほとんど認められず、かゆみもあまりありません。
検査所見
血液検査では、直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を認めます。総ビリルビン濃度は通常2-5mg/dLですが、20-25mg/dLまで上昇することもあります。肝障害マーカー(AST、ALT、GGT、TBA)の上昇はビリルビンに比べて軽度です。低蛋白・アルブミン血症、凝固機能異常などは来しません。また、溶血を示唆するLDH上昇やハプトグロビン低下なども認められません。尿検査ではヘム合成系の中間代謝物であるコプロプロフィリン分画に異常が見られることが特徴的です。健康な人の尿には二つのコプロプロフィリンの異性体(isomer)、isomer ⅠとisomerⅢが存在し、その比率は1:3-4です。一方、DJS症例の尿では、尿中コプロプロフィリンの総量は変わらないものの、isomerⅠとisomerⅢの比率が逆転し、3-4:1となります。肝臓の外観は、非常に黒くなります。これはアドレナリンの代謝物が重合したものであり、ビリルビンではありません。
<肝病理(肝生検)>
肝生検とは、麻酔をした後に腹部に生検針を刺し、肝臓の組織の一部を採取する検査のことです。肝疾患の原因や病態を把握し、診断や治療方法を決定するために必要な検査です。この検査でも確定診断がつかないケースもありますが、肝臓で実際に何が起こっているのかを顕微鏡で確認できる検査(肝病理)であるため、治療法を選択するのに有用な所見が得られることが多いです。
肝病理では肝臓構造は正常ですが、小葉中心の肝細胞に、メラニン様の暗く粗い粒状の色素が蓄積しています。しかし近年、黒色肝や肝細胞内メラニン様色素沈着を認めない新生児DJSも存在することが明らかになりました。
診断基準
ABCC2遺伝子解析によって確定診断することが可能ですが、軽症例が多い疾患群であるため保険適応はありません。多くの場合、他の胆汁うっ滞性疾患、ウイルス性肝疾患、Rotor症候群、Crigler-Najjar症候群、溶血性血液疾患などを除外し、必要ならばABCC2遺伝子検査を実施し診断します。
治療法
DJSは良性疾患であり、線維症や肝硬変への進行はなく、治療も必要ありません。胆汁うっ滞が遷延する場合、フェノバルビタールやウルソデオキシコール酸が投与されることがありません。
予後
DJSは良性疾患であり、寿命は正常です。女性の場合、ホルモン治療による避妊や妊娠によって、黄疸が再燃することがあります。
参考文献
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最終更新日:2020年5月29日